船は来ているのに、なぜ中古車を載せられない?
世界の航路トラブルがRORO船に与えている影響
「ヨーロッパに車を送りたいのに、どうしてパナマ運河の話が関係するの?」
「アメリカ向けなのに、中東のホルムズ海峡が関係あるの?」
「船のスケジュールは出ているのに、なぜ車を載せられないの?」
最近、中古車の海外輸送について、このような疑問を持たれる方が増えています。
実は現在、世界各地で起きている問題は、それぞれがバラバラに影響しているわけではありません。
船が遠回りする。
一航海に時間がかかる。
同じ期間に運航できる船が減る。
燃料価格が上がる。
そして、中古車を載せられるスペースが減る。
全部つながっています。
今回は、なぜ2026年現在、ヨーロッパや北米を中心にRORO船で中古車を送りにくくなっているのかを、なるべく分かりやすく整理してみます。
※この記事は2026年9月時点の状況をもとにしています。海上輸送の状況は今後変わる可能性があります。
まずヨーロッパ向け。近道のスエズ運河を使いにくい
日本やアジアからヨーロッパへ船で向かう場合、本来の近道は、
インド洋 → 紅海 → スエズ運河 → 地中海 → ヨーロッパ
というルートです。
ところが現在、紅海・バブ・エル・マンデブ海峡周辺では安全上のリスクが続いています。
そのため、すべての船会社が同じ対応をしているわけではありませんが、自動車船では紅海・スエズ運河を避けて、アフリカ大陸南端の喜望峰を回る運航が多くなっています。
当然、かなりの遠回りです。
航海日数が延びれば、一隻の船がヨーロッパへ行って戻ってくるまでに、以前より長い時間がかかります。
これは単純に、
「到着が少し遅くなる」
だけの問題ではありません。
一航海に時間がかかれば、同じ船を次の航海に使える時期も遅くなります。
結果として、同じ期間に運航できる便数そのものが減っていきます。

「遠回りするだけ」が、なぜ他の地域にも影響するの?
自動車船は、飛行機のように「この1隻だけが日本とヨーロッパを往復している」という単純なものではありません。
船会社は限られた数の船を、世界各地の需要に合わせて配船しています。
そのため、ある航路で一航海にかかる日数が長くなると、船会社全体として使える船の余裕が少なくなります。
たとえば、これまで一定期間に4便運航できていたものが、航海日数の増加によって3便しか回せなくなったとします。
船そのものが1隻消えたわけではありません。
しかし、一定期間に使える輸送能力は実質的に減っています。
これが非常に大きなポイントです。
一方、北米ではパナマ運河に別の問題が起きています
北米、特に北米東側へ向かう船に関係してくるのがパナマ運河です。
パナマ運河は、海をそのまま横切る水路ではありません。
閘門(こうもん)という設備を使って、大量の真水で船を上げ下げしながら、大西洋側と太平洋側を行き来させます。
つまり、船を通すためには水が必要です。
ところが現在は、雨季に入ってもパナマ運河流域の降水量が想定を下回っており、通航できる船の枠が制限されています。
この影響はコンテナ船だけではありません。
RORO船、自動車船も、予約枠や通航制限の影響を受けます。
つまり、
「パナマ運河まで行けば、そのまま通れる」
というわけではないのです。
「じゃあパナマ運河を使わず、南米の下を回ればいいのでは?」
地図を見ると、そう思いますよね。
パナマ運河を通れないのであれば、そのまま南へ向かい、南米大陸の一番下を回って大西洋へ出ればいい。
理屈としては可能です。
ただし、これは簡単な代替ルートではありません。
まず、とにかく遠い。
さらに南米最南端のケープホーンやドレーク海峡周辺は、世界でも特に海象の厳しい海域として知られています。
弊社が船会社から聞いている話でも、この海域では6~8m級の波になることがあり、自動車船を気軽に迂回させられるような海ではない、という説明を受けています。
もちろん、
「毎日必ず8mの波が来る」
という意味ではありません。
ただ、
「パナマが使いづらいなら南米の下を回ればいい」
と簡単に置き換えられる航路ではない、ということです。
距離が延びれば航海日数も増えます。
燃料も余計に必要です。
さらに荒天による運航リスクも考える必要があります。
結果として、北米東側へ向かうRORO船についても、以前と同じ感覚で配船することが難しくなっています。

さらにホルムズ海峡。これは中東向けだけの話ではありません
もう一つ、現在大きな影響を与えているのがホルムズ海峡です。
ここで少し注意したいのが、
ヨーロッパへ行く船がホルムズ海峡を通るから影響する
という話ではないことです。
日本からヨーロッパへ向かう航路で直接問題になるのは、紅海・スエズ運河側です。
では、なぜホルムズ海峡が関係するのでしょうか。
理由はエネルギー価格です。
ホルムズ海峡は、中東で生産された原油やLNGを世界へ運び出す非常に重要な海上ルートです。
ここで船の通航が大きく減ったり、緊張が高まったりすると、原油価格や燃料価格に影響します。
そして、船は大量の燃料を使って動いています。
つまり、ホルムズ海峡の問題は、
「中東向けに車を送る人だけの問題」
ではありません。
ヨーロッパ向けでも、
北米向けでも、
アフリカ向けでも、
中東向けでも、
船を動かすコスト全体に影響してきます。
ここまでなら「遅くなって、高くなるだけ」に見えます
ここからが、中古車輸出では特に重要なところです。
世界各地で航路が長くなったり、通航できる船が制限されたりすると、
一隻あたりの航海日数が長くなる
↓
船の回転が遅くなる
↓
同じ期間に日本へ来られる船が減る
という状態になります。
では、その船の中では何が起きるのでしょうか。
RORO船は、新車輸送が大きな割合を占めています
自動車専用船は、名前のとおり大量の車を運ぶための船です。
日本から出る自動車船では、自動車メーカーの新車が大きな割合を占める便が多くあります。
新車輸送は、メーカーの生産・販売計画などに合わせて、長期的な輸送計画や契約に基づいて動いています。
その一方で、中古車は船会社や航路によって運用は異なるものの、新車などの計画貨物を積んだうえで確保できるスペースを利用するケースが多くあります。
ここで、先ほどの「船の回転が遅くなる」が効いてきます。
たとえば、これまで一定期間に4隻来ていた船が3隻になったとします。
しかし、自動車メーカーから運ばなければならない新車が、同じタイミングで大きく減るとは限りません。
すると、
1隻あたりに積む新車の割合が上がります。
その結果、
中古車に回せる空きスペースが減ります。
さらに今は、すでに載せられなかった中古車が待っています
そして現在は、単に
「中古車スペースが少ない」
だけではありません。
すでにその少ないスペースを待っている中古車があります。
たとえば、ある船に載せる予定だった中古車がスペース不足で積めなかったとします。
その車は消えるわけではありません。
次の船を待ちます。
ところが次の船もスペースが少なければ、また一部の車が残ります。
すると、
前便からの未積み車両
↓
既存のバックオーダー
↓
さらに新しい輸送依頼
という形で、船積みを待つ車がどんどん積み上がっていきます。
もちろん、必ずしもすべてが単純な先着順というわけではありません。
船会社や航路、契約内容によってスペースの割り当て方は異なります。
ただ、実務上はすでに船積みを待っている大量の車両があるところへ、新しい依頼が追加されていく状態です。
「次の船に、この1台だけ入れてください」が難しい
特に、新しくご相談いただく単発の輸送や、個人のお客様からの1台だけの輸送では、
「来月の船がホームページに載っているので、この船に1台だけ入れてください」
と言われても、簡単には対応できない場合があります。
なぜなら、その船の中古車スペースには、すでに前の船から待っている車がある可能性が高いからです。
船は来ています。
船のスケジュールもあります。
しかし、
中古車を載せられる空きスペースがない。
さらに、
その空きを待っている車も、すでにたくさんある。
これが現在の状況です。

「船のスケジュールがある」=「中古車を載せられる」ではありません
ここが、現在のRORO輸送で一番分かりづらいところかもしれません。
船会社のスケジュールを見ると、
「10月○日 日本出港」
「11月○日 日本出港」
と船の予定が掲載されています。
そのため、
「船が来るんだったら載せられるでしょう?」
と思うのは当然です。
しかし現在は、
船が来ること
と、
その船に中古車用のスペースがあること
は別の話です。
さらに現在は、そのスペースに対してバックオーダーも積み上がっています。
したがって、
船のスケジュールがある=新規の中古車をすぐ載せられる
ではありません。
ヨーロッパの問題、アメリカの問題、中東の問題。実は全部つながっています
ここまでを一度まとめると、こうなります。
ヨーロッパ側では、紅海・スエズ周辺の安全上の問題によって、喜望峰経由への迂回が増えています。
その結果、航海日数が長くなり、船の回転が遅くなります。
北米側では、パナマ運河流域の雨不足によって、通航できる船の枠が制限されています。
RORO船もその影響を受けるため、北米東側への配船が難しくなります。
では南米の下を回ればよいかというと、距離が大幅に長くなり、さらにケープホーン・ドレーク海峡という厳しい海域を通るため、単純な代替ルートにはなりません。
中東側では、ホルムズ海峡周辺の混乱が原油・エネルギー価格に影響し、その結果、船舶燃料を含む運航コスト全体に影響してきます。
そして、これらが最終的に、
一航海が長くなる
↓
船の回転が遅くなる
↓
輸送能力が足りなくなる
↓
1隻あたりの新車比率が高くなる
↓
中古車スペースが減る
↓
載せられなかった中古車が次便へ持ち越される
↓
バックオーダーがさらに増える
という形で、中古車輸出までつながっています。
だから、
「ヨーロッパ向けなのに、なぜパナマ運河?」
「アメリカ向けなのに、なぜ中東?」
という話になるわけです。
世界の海上輸送は、それぞれ完全に独立しているわけではありません。
一つの場所で船の動きが悪くなると、その影響は配船や燃料コストを通じて、別の航路にも広がっていきます。
2026年末までは、ヨーロッパ・北米向けRORO船は厳しい見通しです
弊社が現在各船会社から受けている案内や、実際の中古車スペースの状況を見る限り、少なくとも2026年末までは、日本発のヨーロッパ・北米向けRORO船について非常に厳しい状況が続くと考えています。
もちろん、仕向地や船会社、本船によって状況は異なります。
今後、情勢が変わればスペース状況が改善する可能性もあります。
ただ、現時点では、
「○月の船に必ず載せられます」
というご案内が難しいケースが増えています。
急いで車を送りたい場合には、RORO船の空きを待ち続けるのではなく、コンテナ船による輸送も含めて検討する必要があります。
今のRORO船を一言でいうと
現在の状況をものすごく簡単に言えば、
時間がかかる。
費用も上がる。
そして、費用を払えば必ずスペースが取れるわけでもない。
という状態です。
「船がない」のではありません。
船は来ています。
しかし、その船が世界を一周して戻ってくるまでに時間がかかり、限られた船の中では新車などの計画貨物が多くを占め、わずかな中古車スペースには、すでに船積みを待っている車両が積み上がっています。
これが、
「船のスケジュールはあるのに、中古車を載せられない」
という、一見不思議な状況が起きている理由です。

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